先日、無事イタリア遠征から帰国し、今週から新シーズンがスタートしました。遠征に参加したメンバーは初めての海外でイタリアのカルチョ(サッカー)を経験し、自分の今いる現状、世界基準を体感できたのではと思います。試合後に選手たちが「寄せが早い」、「当たりが強い」と口々に言ったイタリア人の選手のプレーは日本では中々ないものでした。
私たちコーチが見ていてもかなりの当たりの強さがあったので、ピッチにいた選手たちは相当実感したことでしょう。相手のプレースタイルだけでなく、様々な視点からイタリアのサッカーを見ていくと、私たちコーチにとってもこれから目指すべき育成モデルの発見や有益な情報が多々あったのでいくつか紹介してきます。
①イタリアに根付いたサッカーの歴史・文化
街を歩いているとどこにでもバールがあります。日本のコンビニ感覚でふらっと気軽によれる場所です。週末の夜はサッカーの試合を放送し、毎朝スポーツ新聞(9割はサッカー記事)が並び、客はカフェを飲みながら愛するクラブの結果をバールで話しています。テレビに目を移すとゴールシーンやハイライトを50回以上延々と流すだけでなく、討論形式のサッカー番組も非常に多く、コメンテーター、元監督、元選手に混ざって一般の出演者まであーだこーだ言っています。その議論に答えはないにせよ、「サッカーをみる文化」、「サッカーについて語り合う文化」が根付いていて、プレーをしていなくても目が肥えていて、サッカーについての知識が豊富な人が多い印象を受けました。
②グラウンドの数
田舎の街クラブでも当たり前のように自分たち専用の天然芝のグラウンドを保有し、更衣室やシャワールームも必ず完備されています。日本では専用グラウンドがなく土のグラウンドが殆どだという話をするとイタリア人のコーチが「日本という素晴らしい国でそんなまさか!」と驚いていました。日本の部活でよく聞く「下級生による球拾い」はイタリアにはありません(そもそもイタリアには部活は存在せず、学校が終わった後に地元のスポーツクラブに通う)。なぜなら全員がプレーできる程のクラブとグラウンドが常に存在しているからです。
③技術の捉え方について
日本におけるトレーニングでは、練習内容自体が個々の技術を切り離して行われることがほとんどです。例えばグラウンド外周(=持久力)、リフティング(=ボールフィーリング)、対面パス(=パス・コントロール)、シュート練習(=シュート)など反復要素の強いトレーニングが挙げられます。イタリアのクラブチームの様々なトレーニングを見てきましたが、この類の練習を行っているクラブはひとつもありませんでした。イタリアでは技術は個別に捉えるのではなく、サッカーという全体像を意識しながらトレーニングを行ってました。言わば日本が色んな「技術」という細かなパズルを組み立てながら「サッカー」を作り上げていくのに対し、イタリアはサッカーという小さな泥団子を時間をかけて大きくしていくイメージです。日本の選手たちは技術面に劣ってはいませんでした。しかしサッカーの試合全体で見ると巧者はイタリア人です。細かい能力に対して集中してトレーニングするため1つ1つの精度が高い日本人ですが、その細かなパズルを複合することが難しい=実戦で表現することに苦労する。一方でサッカーの全体をイメージしてトレーニングを行うイタリア人がより実戦で活きるプレーができていると感じました。
④練習時間
最後に、意識的に大きく異なるポイントが練習量の違いです。日本ではサッカークラブや部活では練習日数が多く、一日の練習時間が3時間に達するところも少なくありません。イタリアの同年代のチームに大差で敗れた後に、相手チームのコーチにどのような内容のトレーニングをしているのか聞いたところ、1回60~90分のトレーニングを週2~3回という答えが返ってきました。
長々やっても体に負担がかかるだけ、負荷、休息、回復のバランスが取れて最高のトレーニングと呼べるのです。イタリア人コーチが冗談交じりにこう言いました、「トレーニングが2時間を超えると、それ以降はベビーシッターだよ」と。時間で拘束することで練習量を増やし、技術の向上を求めるあまり集中力も欠如し、怪我のリスクを高めてしまっていることに私たち大人が気づいてあげなければいけません。イタリアサッカー協会では、指導者にトレーニングのガイドラインを設定し、違反する指導者がいる場合は、指導ライセンス免許の剥奪もあります。イタリア全土に監視役が存在し、常に目を光らせており、選手たちのために最善の育成環境を整備しようとプレーヤーズファーストに力を注いでいます。
「世界を知る」という意味では、私たち指導者も100年以上の歴史を誇るサッカー先進国イタリアの育成環境を知る機会となりました。今後ともスクール生のみんなにより良い環境を提供できるよう努めてまいります。
長くなりましたが、お伝えしたいことを挙げるときりがありません。その他に気づいた点や、遠征に関して発信できていない情報は「遠征報告会」を企画して、遠征中に撮影した動画も含めてお届けしたいと考えています。またその日程が決まり次第、アナウンスさせていただきます。イタリア遠征に興味のある方は是非ご参加ください。よろしくお願いいたします。
齊藤コーチ